<後編>自分をよく知り、自分に合ったやり方を「継続」することが大事

前回に続き、元ノルディック複合競技の加藤大平選手のインタビュー記事をお届けします。前回の記事はこちらをご覧ください。

 

—加藤選手はサプリメントを使用していると伺いましたが、取り入れようと思ったのはなぜですか?

今、私に必要な栄養は何だろう?と考えて出した結論が「回復力の重要性」でした。30代に入って色々と見直し、良いと感じるものは続けてみようと思っていました。

練習も大切ですが、いかにケガを回避して良いパフォーマンスを出し続けられるかが現役で活躍するために大切なことです。20代は回復力が高かったので、練習をやればやるほどパフォーマンスが上がりました。しかし30代に入ると、練習後の体力回復が追いつかなくなってきたんです。

体力回復のために必要な睡眠や栄養面を真剣に考えるようになりましたし、サプリメントも摂ることを考えました。

 

—選手どうしでサプリメントについて話すことはありますか?

ありますね。家族よりもチームメンバーと一緒にいる時間が長いので、合宿中にメンバーがいつもと違うものを飲んでいたらすぐにわかります。気になったときは「それはどんなサプリメント?」と質問します。チームメンバーは仲間でありライバルでもあるので、自分から「これいいよ」と渡したりはしませんが(笑)、聞かれたら答えるようにしていました。

 

—回復力をアップさせるために心がけていることは他にもありますか?

しっかり睡眠をとることです。練習が続くオンシーズンは特に、睡眠のコントロールが欠かせません。普段は22時には布団に入り、最低でも8時間寝るように心がけました。

クロスカントリーの競技開始時間は、大会によって変動します。たとえば2日間のうち、初日の競技開始時間が16時で、翌朝の開始時間が9時ということもあります。初日の競技開始時間が遅ければ終了時間も遅くなりますから、普段と同じ時間に寝つけないこともあります。睡眠のコントロールはとても大切です。

 

—遠征中の食事についてはどのようにコントロールしていましたか?

海外遠征中の場合は、特に泊まるホテルによって出てくる食事の内容が変わります。自分のコンディションと相談しながら栄養バランスを考えて選んで食べる必要があります。内容によっては、たんぱく質やビタミンが足りなくなることもあるので、プロテインを持っていくなどの栄養補給を工夫していました。

基本的にはバランスよく食べ、競技前はエネルギーを蓄えるために炭水化物を多めに摂るよう心がけていました。

 

—遠征先で日本食を食べたくなったりはしませんでしたか?

最初はみそ汁を食べたくなったことがありましたが、慣れたというか、「舌」があきらめました(笑)

遠征で日本を2カ月離れることもよくありましたし、日本食は持って行きませんでした。せっかく舌があきらめている状態なのに、途中で日本食を食べると、そのあとが辛くなると思ったんです。日本食がないと思えば案外あきらめられました。

 

—ご自身のコンディションに向き合われ、自己管理を徹底されていたのですね。ストイックに体調管理をし続けることは大変ではありませんでしたか?

大変ではありましたが、そうするのが一番良かったんです。選手の中には、それほど自己管理を徹底しなくてもジャンプが飛べたり、走れたりする「天才型」の人がいます。でも、私は「努力型」でした。運動神経が特別よいと思ったこともありませんでしたし、どちらかというと競技生活には大変なことの方が多かったです。

ですが、小さいころからマラソンは好きでしたし、スキーもやっていくうちにだんだん上手くなってきたので、ここまで続けてきてワールドカップに156試合出場できたことはとても嬉しいです。

「努力型」の自分は、どうやったらうまくなるんだろう? と、ずっと考えながら調整してきました。同じ練習をしていても、才能がある人のほうがうまいのは仕方が無いことです。だからこそ、自分が他の人と違うことをどれだけやるかで結果も変わってくるのではないか、と考えました。その一つが練習法の見直しや食生活、サプリメントなどでした。

 

—加藤選手は「努力を人一倍する才能」をお持ちでいらっしゃるのだと感じました。センスがあっても伸ばすためには努力が必要ですよね。

若い人がどんどん出てきて、彼らが表彰台に上がるとやっぱり刺激をもらい、次また頑張らねば!と奮起していました。シーズン中はついスキーのことばかり考えてしまうので、ネガティブな気持ちのサイクルに入りがちでもありました。ネガティブな気持ちはケガにもつながりやすいので、できたこと一つ一つを喜び、気持ちを切り替えるようにしていました。

今回のオリンピックを境に区切りがついたので、現役は前シーズン限りで退くことにしましたが、これまでの競技人生を通して感じてきたこと、やってきたことをもとに、また今後も歩んでいきたいと思います。

 

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加藤選手、話をお聞かせいただきありがとうございました。チームメイトや協力者がいても、雪の上やジャンプ台の上ではたったひとりで歩みを進めねばならないのが、ノルディック複合競技。加藤選手の努力を伺い、気持ちが引き締まる思いでした。

 

時には大変なこともあるけれど、それに向き合い、きちんと基本は守ること。健康維持のために借りられる力を借りて、選んだものには自信をもてること。これが、私たちの生活において幸せなことかもしれません。加藤選手、あらためて現役の競技生活大変おつかれさまでした!今後も応援しています。

 

 

加藤大平(かとうたいへい)

<元ノルディック複合競技選手>

2010年バンクーバー大会、2014年ソチ大会と2度の冬季オリンピックに出場。バンクーバー大会では団体ラージヒル6位入賞。ノルディック世界選手権は2007年から5大会連続出場。2009年のリベレツ大会(チェコ)にて、日本勢14年ぶりの金メダル獲得に貢献。

ワールドカップでは2012年、2013年に、2度の個人戦3位表彰台を記録。世界トップレベルの選手のひとりとして、長きにわたって活躍してきた。