健康食品はあくまで「生活改善」の選択肢のひとつ。正確な情報は自分の目で確かめて<後編>

「サプリメントは、「基本の生活」を整える努力をしながら補完的に使ってほしい」

前回の記事ではこのようにお話しいただきました。

今週はその続きです。治療をしながらサプリメントも利用したいけれど、誰に相談したら良いの?このサプリメント、ずっと続けていて良いの?そんな疑問を解消できるヒントをお話しくださいました。

 

「健康食品の情報はどこから取れば良いでしょうか?といった質問をよくいただきます。

正確な情報は“国立健康・栄養研究所”が管理運営しているサイト“「健康食品」の安全性・有効性情報”(https://hfnet.nih.go.jp/)で閲覧できます。特定保健用食品(以下:トクホ)や栄養補助食品のビタミン、ミネラルなどについても、成分ごとの機能性が解説されています。

ただ、慎重に読み解くとわかるのですが、「内臓脂肪が気になる方に」とか「血圧が高めの方に」、「LDL(悪玉)コレステロールが気になる方に」と表示された特定保健用食品も、機能性はかなり限定的です。

また、機能性を立証した臨床試験と同じような条件で摂取しなければ期待される効果を得ることはできません。

一回摂取すれば内臓脂肪が減ったり、血圧やコレステロールが下がったりするわけではありません。薬とは別物で、食品は「劇的に効く」ことが本来はあり得ないことを、消費者は理解しておきたいです。

ただし、ご本人がサプリメントを飲んで、効果が実感でき“安心感”も得られているならば、使い続けるのは問題ありません。

ただ、経済的負担については気をつけていただいたいと思います。現在実感できている効果が、金額に見合っているかどうか冷静に判断する必要があります。」

 

― 他に気を付けるべきことはありますか?

「そうですね。経済的負担だけではありません。例えば、貧血があるから、鉄分のサプリメント飲み続けている。でも、なかなか良くならない。飲んでいる時は、なんだかちょっといいような気がする……ですが、ずっと飲み続けていた結果、実は胃がんがあり、そこから出血していたので貧血がなかなか治らなかった、ということもあるかもしれません。

健康食品による“代替療法”のみを選択して西洋医学を忌避した結果、本来得られたかもしれない利益を失ってしまう機会損失は絶対に避けなければなりません。

健康食品だけに頼るのではなく、何か「おかしいな、良くならないな」という時は、ためらわずに病院に行ってみてほしいですね。

 

― サプリメントだけに頼って病院に行かないのは危険ですね。自分の知っている情報や感覚だけで判断しないことが大切なのですね。

「2015年に始まった機能性表示食品制度においては、正確な情報を元に、その製品を利用するのか利用しないのか、消費者自らが判断する事が求められています。

専門用語では「インフォームド・チョイス」という言葉を使います。つまり、消費者は、情報を読み解く力、その情報を元に決断・行動の意思決定をおこなう力、言い換えると「情報リテラシー」を身につける必要があります。

ひとつ重要なポイントとして覚えておいてほしいのは、機能性表示食品を含めて「健康食品」は病気の人を対象にしていない点です(※特別用途食品の一部を除く)。

病気の人を対象とするものは医薬品であり、健康食品を含む食品全般は健康な人あるいは境界域の人を対象にしています。そして、病気を治すのが医薬品であり、食品は健康の保持増進に役立つものと役割が明確に異なっている点は、これを機会に是非覚えておいてください。」

 

― ご自分で調べるだけでなく、専門家への相談もうまく活用したいですね。

自分で調べてもわからないことがあれば、誰かに相談するのが一番です。病気にかかっている方が健康食品を使ってみたい場合、主治医の先生に聞くのが一番です。その人の病気のことを一番わかっているのは先生ですから。

もうひとつ、相談相手として有用と思われるものとして、平成28年10月1日以降に始まった「健康サポート薬局」という新しい制度があります。

この制度は、国民による主体的な健康の保持増進を積極的に支援することを目的に、患者さんからの健康相談対応にはじまり、医薬品(処方薬・一般薬)の指導も適切におこない、さらには健康食品の相談にも応じられることが「健康サポート薬局」の要件になっています。

「このサプリメントを使い続けていても大丈夫?」とか、「今使っているお薬との併用に問題はないの?」など、健康サポート薬局の薬剤師に確認をすることもできます。」

 

―ひとりで悩まずに相談できる場所があるのは安心ですね。

ひとりで悩まないで、というのは強調したいメッセージになります。

がん患者さんの勉強会とかで出てくる言葉に“患者力”という言葉があります。「患者力を高めるにはどうしたらいいでしょうか?」と。それは、「正確な情報を見極める力」とか「疑問点をお医者さんに質問できる力」とかいろいろ求められていますが、最初から、いきなりできるようなことではありません。

ですから、最初の一歩として、何か困ったり悩んだりしているときは、「私、困っています。悩んでいます!」とまずは声を上げてほしいと、私はよくお伝えしています。誰かに相談するために、まずは声を上げるっていうのが最初の一歩になると思います。」

 

―今、病院に通われていて、サプリメントの使用に疑問や心配がある方はどのように声を上げたら良いでしょうか?

「繰り返しになりますが、病院にかかっている人で健康食品を使ってみたいと思った場合は、必ず主治医に相談してもらいたいと思います。ですが、主治医には遠慮してなかなか相談できないという人がいるかと思います。

その場合は、担当の看護師や薬剤師に相談することも検討してみてください。特に健康食品と医薬品との相互作用については、薬剤師が非常に豊富な知識を持っています。

現状では、医療現場が健康食品について気軽に話ができる環境になっていないことは事実だと思います。しかし、患者さん自らどんどん相談することで、お医者さんの意識も変わっていくと思います。

自ら声を上げることで、健康食品がもっと上手に向き合えるようになると思いますし、医療現場でも有効的に使われるきっかけになるかもしれないと思っています。」

 

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大野先生、ありがとうございました。

今回のお話で、サプリメントに関する制度や仕組みが沢山あることがわかりました。私たちはこれらをうまく活用して正しい情報を得ることもできます。しかし、一番大切なのは、ひとりで悩まずに、お医者さんや専門家、周りの人に相談することです。

 

 

大野 智(おおの さとし)

大阪大学大学院医学系研究科 統合医療学寄附講座

寄附講座准教授

専門領域:緩和ケア・免疫療法

大阪大学大学院医学系研究科統合医療学寄附講座 准教授/早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構 客員准教授。1971年浜松市生まれ。98年島根医科大学(現・島根大医学部)卒。主な研究テーマは腫瘍免疫学、がん免疫療法。補完代替医療や健康食品にも詳しく、厚労省『「統合医療」情報発信サイト』の作成に取り組む。

 

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