前回に引き続き、外科医、薬剤師、薬局経営、在宅薬学会の理事など多面的にご活躍の、大阪市の狹間研至先生にお話しを伺いました。【全4回】のうち、今回は第2回です。前回の記事はこちらをご覧ください。
−薬剤師さんの仕事の意義を見つめ直すと当時に、薬剤師さんとお医者様の連携が取れた上でお薬を出してもらうことも大切なのですね。
たとえば、長期間薬を飲む必要のある患者さんがいますが、『分割調剤』という仕組みがあります。
例えば、通常なら90日分の薬を病院に行って出してもらうところを、薬の服用に心配がある方や服薬状況を見ながら薬剤師のサポートが必要と判断されるような場合は、30日分ずつ3回に分割して薬局で受け取ることができるという制度です。
ただ、こういった制度が上手く機能していないので、その分お医者さん側に負荷がかかりやすく、お医者さんの時間が全然足りないことにも関係してきます。ですから多くの病院で『3時間待ちで、診察は3分』のようなことが起こってしまうのです。
薬の出し過ぎ、もらいすぎもよく問題になりますが、病院も薬局も、薬をたくさん出せば儲かるわけではありません。では何故こうなっているかというと、お医者さんが「対症療法的」に患者さんへ接していることが理由のひとつです。今は医療費が1割負担、0負担の方もいますから、薬は多くても値段はそれほど高くなく、負担にはならないことが多いのです。しかし、結局はそれほど多くの薬を飲めないケースもあります。実際に僕が患者さんを訪問すると、『お医者さんが薬を15種類も出してはって、飲めなくて余っています』と申し出られることもあります。」
お医者さんは、本当に診るべき患者さんに注力しなければならないと思うのです。だからこそ、お医者さんと薬剤師の連携が大切です。
−本当は、お医者さんや薬剤師さんにもっと相談したいと思う患者さんもいるのではないでしょうか。
お医者さんへ相談する時間がないと、患者さんは不安ですよね。統合医療においても考えなければならないことがあります。
ある調査によれば、がん患者さんの約半分が主治医以外の治療を取り入れていて、うち9割ほどが健康食品です。負担額は月平均5万8000円。2割の人は10万円超えで、100万円超えと回答した人もいました。
一方、主治医以外の治療を取り入れている人の6割は主治医に相談できていないこともわかりました。どんなものかわからなければ、お医者さんも判断できません。だから、全国に21万人いる薬剤師の出番なんです。
AHCCⓇだけでなく、他の機能性食品についても、それを用いた実験が行われている場合、どんな試験をしているのか、ヒトでなくネズミの実験データしかないのか、ダブルブラインドコントロールの試験をやっているか、試験そのものの信憑性があるかなど確認しなければなりませんし、その目利きができることが重要やと思います。
通販や訪問販売など売られている健康食品も中にはありますが、『統合医療』のように確かなエビデンス(科学的根拠)に基づいた治療をやるならば薬剤師さんのサポートが必要です。
−具体的には、患者さんと薬剤師さんはどのようにコミュニケーションするのが理想的なのでしょうか。
AHCCⓇを例に挙げると、極めて安全性も高く、重篤な副作用も報告されていないと思いますが、想定される何かがあるならば、そこを注視して困ったことがないかを薬剤師さんが見てあげて、『おかしいかも』と思ったら、患者さんにアラートを鳴らしたり、お医者さんにも言わなければなりません。
『AHCCⓇはこういう優れたものですよ、あなたもおひとつどうですか?』『1日3包飲んでくださいね』と説明して渡すだけでは足りません。健康食品を使う人は、AHCCⓇが飲みたいわけではなく、『がんを治したい、再発を予防したい』ということで抗がん剤を使いながら飲まれます。
飲んでも相互作用は無いんかなとか、いろんな不安をお持ちです。その不安解消を後押しするのが薬剤師です。それができると、もうちょっと有効で効率的な医療ができるんじゃないかなと。
以前、私の母のお客さんで、旦那さんががんの末期の方がいらっしゃいました。その方に私の母は、ある生薬を販売したことがあります。その方は、つらそうにしている旦那さんを見ることがつらく、不安だったので買って行かれたのです。その後、しばらくしてまた来店されましたが、びっくりしました。
『狹間さんありがとう。うちの旦那亡くなりました。旦那はもともと毎朝トーストとコーヒー飲むのが大好きやったけど、病気になってからそんなん一回も言ったことなかった。ところが狭間さん、あれ(生薬)飲ましたら、コーヒーが飲みたいっていうのよ。朝トーストとコーヒー食べようかなって、もういそいそと作りましたよ。全部は食べないけど、一口飲んで、一口かじってね、“ああ美味しい”と言って亡くなったんですよ。私はもう悔いはありません。』と仰ったんですよ。
僕はその話に非常に感銘を受けました。もちろん、医療は日々発達していますし、痛みや苦しみの緩和ケアも重要です。患者さん、ご家族の本当のニーズをとらえて応えていくためには、やはり統合医療という考えは大切だと思います。
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狭間先生のお話は次回に続きます。お楽しみに!
狹間研至(はざま けんじ)先生
ファルメディコ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本在宅薬学会 理事長
医療法人嘉健会 思温病院 理事長
熊本大学薬学部・熊本大学大学院薬学教育部 臨床教授
京都薬科大学 客員教授
医師、医学博士
大阪大学大学院医学系研究科 統合医療学寄附講座 特任准教授
ホームページ:
ファルメディコ株式会社 http://www.pharmedico.com/
ハザマ薬局 http://hazama-web.co.jp/
ハザマ薬局:
大阪市北区天神橋1−9−5 山西屋・西孫ビル3F
TEL:06−4801−9555
【略歴】
昭和44年 大阪生まれ
平成7年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。
平成12年大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わる。
平成16年同修了後、現職。医師、医学博士、一般社団法人 日本外科学会 認定登録医。
現在は、地域医療の現場で医師として診療も行うとともに、
一般社団法人 薬剤師あゆみの会・一般社団法人 日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、長崎大学薬学部、近畿大学薬学部、兵庫医療大学薬学部・愛知学院大学薬学部、名城大学薬学部などで薬学教育にも携わっている。著書:薬局マネジメント3.0(評言社)ほか多数