「いろんな可能性があっても、患者さんの真実はひとつです。現れている症状が、急性期のものなのか、薬の副作用なのか、見抜く仕組みが今この国には無いんです。」
「超高齢化が進んだら色々な症状が重なってくるので、『多職種のチーム医療』をやらなくちゃいけない。それが、僕自身一番仕事の中で力を込めていることです。みんなが専門性を生かして患者さんを良くすることに力を集約したら、医療はもっと楽しくなるんじゃないかな。」
狹間先生の言葉より抜粋
今回は、外科医、薬剤師、薬局経営、在宅薬学会の理事など多面的にご活躍の、大阪市の狹間研至先生にお話しを伺いました。今回は大ボリュームのインタビューとなりましたため、【全4回】に分けてたっぷりとお届けいたします。
−狭間先生が現在取り組まれているお仕事についてお聞かせください。
まずは、薬局の運営です。大阪市内で7店舗経営しています。ここでは主に訪問診療や、在宅の患者さんのサポートを方針としていて、社員数は150名ほどです。薬局の原点は私の母親がやっていた相談薬局です。以前から健康食品や漢方薬も売っていましたが、時代の流れで一度「門前薬局」に変わりました。
僕は、この「門前薬局」の形態を変えたいと考え、試行錯誤がありましたが、今は特に「在宅」に力を入れています。患者さんにお薬を間違わずに渡すために使うカルテやシステムを自社で作ったりもしています。実務はスタッフに任せ、僕は朝1時間ほど事務所で仕事をしてから病院の仕事へ向かい、夕方、又事務所に戻る日々です。
−先生が理事長を務められる「思温病院」についても教えてください。
思温病院は地域の中小病院です。スタッフは250名ほどで、<地域の方に『安心、安全と思っていただける』病院>を理念に掲げています。急性期の病院から転院してこられる患者さんや、介護施設で調子が悪くなった患者さんを受け入れてリハビリをおこなってもらい、日常生活ができるようにサポートしたり、あるいは体調不良によって食が細くなられた方の回復サポートなどもしています。
ここでも、機能性強化型在宅支援病院として、『在宅療養支援』に力を入れています。
僕は元々大学を出てから、10年ほど外科医ひと筋でした。心臓外科医の名医 松田 暉先生が当時第一外科に教授でいらして、そこで外科を一から学んでいます。僕は呼吸外科を専門として修練を受けました。
−医師、薬剤師としての通常業務だけでなく、薬剤師さん向け講座も開催されていると伺いました。
土日は薬剤師さん向けの講演や大学で講義をしています。薬剤師さん向けには今後の薬剤師のあり方(キャリア形成)を考えたり実技を身につけたりする場として「一般社団法人 日本在宅薬学会」を立ち上げ、運営しています。
薬剤師さんがお医者さんと一緒に患者さんのご自宅に訪問してお薬を届けたり、サポートするなど、『お医者さんとの連携』を自分の会社でやってみた結果、一定の成果が得られたので、それを講座や研修にして広めているところです。
薬剤師さんの中でも、在宅の薬剤師さんの役割を「配達すればOK」のような印象があるようですが、そんなことはないんですよ、とお伝えしています。講習会では、血圧をとったり、脈を計ったりなどの方法と、それらの結果をどのように薬剤師は活用するべきか、ということについて伝えています。これまでの参加者は4300人ほどになりました。(2018年7月取材時)
−なぜ、薬剤師さんへ『在宅医療での関わり方』を伝えることに、力を入れておられるのでしょうか。
医療ニーズが変わりつつある今、『自分の役割』を迷う薬剤師さんが数多くいるからです。薬剤師さんは薬局、病院合わせて約21万人いますが、みんな熱心にとても専門性の高い仕事をしてきました。しかし、ここ5年くらいで機械化も進み、薬の説明など機械にもできるようになりました。
僕の子どもの頃は、薬剤師の母親が薬を乳鉢で擂って、薬包紙でひとつずつ包むなどして、患者さんとやりとりする環境がありました。薬学部の学生は6年制で、医学部と同じ期間勉強します。ただ彼らは学んだことを現場で上手く生かしきれず、「自分たちは薬を出すだけの仕事でいいのだろうか」と、非常に悩んでいるんです。
薬剤師さんは、薬を飲んでから身体にどのような影響が出るのか、脳内のどの部分に薬の物質が行き届き、それによりどんな副作用が出て、何時間後までそれが継続するか・・・・・・など、「薬理」を専門に学んでいます。お医者さんが医学部では学ばないことです。しかし学んでいる一方で、現場では『薬を出すまで』しか患者さんに関わっていない。これは、構造的な問題なんです。
薬剤師としての未来に悩んだのは、薬局経営者としての僕も例外ではありません。どうしたら良いかを考えて「在宅薬学」をキーにしました。専門的に学んできた『薬を飲んだ後のこと』までフォローするようにしたら、状況は変わるはずと思って、力を入れることにしたんです。
学生さん達にも「今の薬局、薬剤師のあり方が、自分の将来そのものだと思ってはいけないよ」と伝えています。医療制度も必ず変わっていくはずですから。
例えば、お医者さんの処方箋で患者さんが『めまいがする』と訴えて、『めまい止め』の薬を出すとします。ただ患者さんがすでに他の薬を飲んでいた場合、薬剤師さんは、『この(別の)薬の副作用でめまいがしているのかな』と考えます。
薬の副作用の可能性があれば、今飲んでいる薬を減らす方が先かもしれません。または、「認知症」と思っていた患者さんが、実は認知能力が薬の影響で一時的に下がっていたというケースもあります。あまり知られていませんが、市販の「胃薬」を飲むと、認知機能が下がると言われています。
胃薬には、飲んだ後に頭の中に入り、神経系をブロックするメカニズムがあります。脳内の神経伝達物質がうまく伝わらないと、あらゆることに影響が及ぶ可能性がある。
患者さんが高齢であれば副作用も出やすいんです。僕としては、これはちゃんとせなあかんと思って、「お薬飲んでから、調子はどうですか? 楽になりましたか?」と聞いてあげましょうと、薬剤師さんへ伝えています。
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狭間先生のお話は次回に続きます。お楽しみに!
狹間研至(はざま けんじ)先生
ファルメディコ株式会社 代表取締役社長
一般社団法人 日本在宅薬学会 理事長
医療法人嘉健会 思温病院 理事長
熊本大学薬学部・熊本大学大学院薬学教育部 臨床教授
京都薬科大学 客員教授
医師、医学博士
大阪大学大学院医学系研究科 統合医療学寄附講座 特任准教授
ホームページ:
ファルメディコ株式会社 http://www.pharmedico.com/
ハザマ薬局 http://hazama-web.co.jp/
ハザマ薬局:
大阪市北区天神橋1−9−5 山西屋・西孫ビル3F
TEL:06−4801−9555
【略歴】
昭和44年 大阪生まれ
平成7年大阪大学医学部卒業後、大阪大学医学部付属病院、大阪府立病院(現 大阪府立急性期・総合医療センター)、宝塚市立病院で外科・呼吸器外科診療に従事。
平成12年大阪大学大学院医学系研究科臓器制御外科にて異種移植をテーマとした研究および臨床業務に携わる。
平成16年同修了後、現職。医師、医学博士、一般社団法人 日本外科学会 認定登録医。
現在は、地域医療の現場で医師として診療も行うとともに、
一般社団法人 薬剤師あゆみの会・一般社団法人 日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育に、長崎大学薬学部、近畿大学薬学部、兵庫医療大学薬学部・愛知学院大学薬学部、名城大学薬学部などで薬学教育にも携わっている。著書:薬局マネジメント3.0(評言社)ほか多数